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和歌山地方裁判所御坊支部 昭和49年(ワ)29号 判決

昭和四九年(ワ)第二九号事件原告・

中岡学

昭和五〇年(ワ)第八号事件被告

昭和四九年(ワ)第二九号事件被告・

川田稀男

昭和五〇年(ワ)第八号事件原告

ほか一名

主文

被告兼原告川田および同村上は各自原告兼被中岡に対し金四八五万三、八六六円およびこれに対する昭和四六年一二月七日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告兼被告中岡のその余の請求および被告兼原告川田、同村上の各請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は五分しその二を原告兼被告中岡の負担とし、その余は被告兼原告川田、同村上の負担とする。

第一項は原告兼被告中岡において仮に執行することができる。ただし、被告兼原告川田、同村上において各金二〇〇万円の担保を供するときは、当該被告兼原告は右仮執行を免れることができる。

事実

(昭和四九年(ワ)第二九号事件について)

第一原告中岡の求める裁判

「被告川田、同村上は各自原告中岡に対し金九八八万四、一二一円およびこれに対する昭和四六年一二月七日から完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言

第二被告川田、同村上の求める裁判

「原告中岡の請求を棄却する。訴訟費用は原告中岡の負担とする。」との判決

第三原告中岡の請求原因

一  交通事故の発生

原告中岡が昭和四六年一二月六日午前一一時四五分ころ北九州市戸畑区境川町二五番地先道路上を普通貨物自動車(和一す六四八二号)を運転して進行中、被告川田に自動車運転手として雇用されていた被告村上が被告川田所有の貨物自動車(北九州四ぬ六六〇九号)を運転して反対方向から進行して来て、右原告中岡運転の自動車と衝突した。

二  原告中岡の受傷

原告中岡は右事故により右膝蓋骨複雑骨折、右膝関節内障等の傷害を負い、入院治療約四カ月間、自宅安静治療約一年三カ月間を余儀なくされた。

三  事故原因

原告中岡は右事故当時正常な運転をしていた。ところが、対向して進行して来た被告村上が、その運転する車両の進路前方に歩行者を認めたのであるから、同被告は減速徐行する等の措置をとるべきところ、これを怠り急に右にハンドルを切つたため車がスリツプして一回転し原告中岡の道路上に入りこみ同原告運転の車両前部と衝突したものである。

四  責任原因

よつて、被告村上は不法行為者として、被告川田はその使用者として、原告中岡の蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

五  原告中岡の蒙つた損害

(一)  治療費等 合計金四九万八、一〇一円

内訳 古賀外科病院への支払 二万五、七八一円

日高病院への支払 一〇万〇、〇〇〇円

付添看護費 二〇万七、七二〇円

肌着ほか 六、六〇〇円

氷代 四、〇〇〇円

入院雑費(一日三〇〇円の割合で一一五日分) 三万四、五〇〇円

父母御坊市から北九州市までの旅費 一万四、〇〇〇円

母北九州市から御坊市までの旅費 七、〇〇〇円

父看病のための北九州市滞在費(一日一、五〇〇円の割合で一九日分) 二万八、五〇〇円

転医費(北九州市古賀外科病院から御坊市日高病院まで転医に要した諸費用) 七万〇、〇〇〇円

(二)  休業損害 金三一八万七、八〇八円

原告中岡は昭和四六年二月から貨物自動車を所有し陸上貨物運送業に従事していたものであるが、本件事故による負傷のため昭和四六年一二月七日から昭和四八年八月一三日まで六三二日間休業し、無収入となつた。事故前の原告の収入は平均月収金一五万三、四五〇円、日収金五、〇四四円であるからその休業による損害は金三一八万七、八〇八円となる。

(三)  慰藉料 金一一二万二、〇〇〇円

原告中岡は本件事故により入院一一五日、通院五一八日の加療を余儀なくされた。その間の精神的苦痛に対する慰藉料は入院一日につき三、〇〇〇円、通院期間一日につき一、五〇〇円として、合計一一二万二、〇〇〇円となる。

(四)  逸失利益 金五四〇万五、九八二円

原告中岡は本件事故により膝関節に後遺障害が残存し、後遺障害一二級相当の「下肢を使う動作による長時間の就労不能」となつた。その労働能力喪失率は一〇〇分の一四であり、原告中岡の就労可能年数は三八年(その新ホフマン係数は二〇・九七〇)、月収額は前記のとおり金一五万三、四五〇円であるので、その逸失利益は金五四〇万五、九八二円に達する。

(五)  物損 金六四万〇、二三〇円

原告中岡は本件事故により、その所有する自動車を破損された。その修理に要する損害額は金六四万〇、二三〇円である。

六  保険金の受領

原告中岡は、本件事故の損害賠償の一部として、自動車損害賠償責任保険から金九七万円の給付を受けた。

七  原告中岡の請求

よつて、原告中岡は被告両名に対し、それぞれ、損害賠償として、右損害額合計一〇八五万四、一二一円から右保険給付額を除いた金九八八万四、一二一円の支払を求める。

第四請求原因に対する被告川田、同村上の答弁

一  請求原因一項の事実は認める。

二  同二項の事実は否認する。原告中岡の受けた傷害は加療約一五日程度のものである。

三  同三項の事実は否認する。本件事故は、被告村上が歩行者を避けるため停車しようとしたところ自車が右転回し、そこへ原告中岡が猛スピードで追突して来たものである。被告村上の運転する自動車が転回したのは不可抗力によるものであり、事故は原告中岡の過失によるものである。

四  同四項のうち被告村上が同川田に雇用された従業員であつたことは認めるが、右被告らに賠償責任があるとの点は否認する。

五  同五項の損害の点はすべてを否認する。なお、原告中岡は運送業の免許を受けていない。

第五被告川田、同村上の抗弁

一  裁判外の和解

本件事故により被告村上も負傷したので、昭和四六年一二月二〇日頃原告中岡と被告両名との間において、同原告が被告川田の加入する自動車賠償責任保険の給付を請求受領する以外は、原被告相互に何等の請求をしないことを約し、被告川田は右保険関係書類一切を原告中岡に交付した。よつて同原告は右和解により被告両名に対する右保険請求以外の請求権を喪失した。

二  過失相殺

本件事故は被告村上が横断歩道上の歩行者を避けるため停車しようとしたところ自車が右に転回し、そこへ原告が中岡が反対方向から猛スピードで進行して来て追突したものである。その過失割合は原告中岡が五割以上であるので、損害賠償請求につき過失相殺を求める。

第六被告両名の抗弁に対する原告中岡の答弁

抗弁事実はいずれも否認する。

(昭和五〇年(ワ)第八号事件について)

第一原告川田、同村上の求める裁判

「被告中岡は原告川田に対し金六一万二、〇〇〇円、原告村上に対し金一〇〇万円および右各金員に対する昭和四六年一二月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告中岡の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言

第二被告中岡の求める裁判

「原告両名の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告両名の負担とする。」との判決

第三原告川田、同村上の請求原因

一  交通事故の発生

原告村上は昭和四六年一二月六日午前一一時四五分頃原告川田所有の貨物自動車(北九州四ぬ六六〇九号)を運転し、北九州市戸畑区境川町二五番地先道路上を小倉方向から若戸大橋方向に向い時速約四〇キロメートルで進行し、横断歩道の手前にさしかかつたところ、道路左端から歩行者が突然横断歩道上に出て来て横断を開始したので、急ぎその手前で停車しようとしたところ、折からの降雨のため路面が滑り、原告村上運転の右自動車は右に転回して停車した。ところが、反対方向から時速約八〇キロメートル以上の猛スピードで対向進行して来た被告中岡運転の普通貨物自動車(和一す六四八二号)が右横断歩道の前で停車せず原告村上運転の自動車後部に追突し同車を大破させ、原告村上に通院加療二四日間を要する左側頭部打撲傷、頸捻挫の傷害を与えた。

二  被告中岡の責任原因

本件事故は被告中岡が横断歩道直前で一旦停車または徐行すべきに拘らずこれを怠り猛スピードで進行したため発生したものであり、同被告の過失によるものであるから、同被告は不法行為者として賠償責任がある。また被告中岡は前記普通貨物自動車(和一す六四八二号)を所有しこれを運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保険法第三条によつても賠償責任がある。

三  原告川田の蒙つた損害

(一)  自動車の修理費 二二万二、〇〇〇円

(二)  休車損害(右自動車修理期間一〇日の間、八洋商事より 借用した代車の賃料 一五万〇、〇〇〇円

(三)  給与二カ月分(原告村上が本件事故により負傷欠勤した 期間同人に対し支払つた給料) 二四万〇、〇〇〇円

(四)  右合計 六一万二、〇〇〇円

四  原告村上の蒙つた損害

精神的苦痛に対する慰藉料 一〇〇万円

原告村上は本件事故により左側頭部打撲傷、頸 捻挫の傷害をうけたが、後遺症として現在も腰部に痛みを残し、労働にも苦痛を感ずる状態であるので、これを慰藉するには金一〇〇万円が相当である。

第四請求原因に対する被告中岡の答弁

一  請求原因一項のうち、交通事故発生の日時場所、車両の所有者、運転者が原告両名主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

二  同二項から四項までの事実は否認する。

第五被告中岡の抗弁

被告中岡には、本件事故の原因となるような運転上の過失、自動車の構造上の欠陥、機能上の障害はなかつたので、同被告は自動車損害賠償保険法第三条による責任はない。

第六抗弁に対する原告川田、同村上の答弁

抗弁事実は否認する。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  争いのない事実

原告兼被告中岡(以下単に中岡とも言う)が昭和四六年一二月六日午前一一時四五分ころ北九州市戸畑区境川町二五番地先道路上を普通貨物自動車(和一す六四八二号)を運転して通行中、被告兼原告川田(以下単に川田とも言う)に自動車運転手として雇用されていた被告兼原告村上(以下単に村上とも言う)が川田所有の貨物自動車(北九州四ぬ六六〇九号)を運転して反対方向から進行し、右両自動車が同所で衝突したものであることは、当事者間に争いがない。

二  事故の態様および原因

原告兼被告中岡と被告兼原告川田との間において成立について争いがなく、右中岡と被告兼原告村上との間において方式および趣旨により公務員が職務上作成した真正な公文書と認めることのできる〔証拠略〕(いずれも刑事記録)によると、前記争いのない事故は、被告兼原告村上が前記貨物自動車(北九州四ぬ六六〇九号、二トン車)を運転し、直線で見通しのよい前記道路(道路幅員一二メートル、コンクリート舗装、速度規制時速四〇キロメートル以下)を時速約五〇キロメートルで進行し、現場はやや下り勾配で当時降雨のため車両が滑走しやすい状況であつたのであるから、速度を通常の場合よりも減速しかつ急激な制動措置を避けるべき注意義務があるのに、これを怠り、前記速度のまま進行し前方約二三メートルの横断歩道上を歩行者が左端から横断を開始したのを認めるや、あわてて急制動をするとともにハンドルを右に切つた過失により自車を半回転させ対向車線上に停止させ、折から反対方向から時速約四〇キロメートルの速度で進行して来た中岡運転の普通貨物自動車をして自車の後部に追突せしめ、これにより、村上運転の自動車は後部ボデー凹損中岡運転の自動車は前部バンバー、運転台前部大破の損傷を受けたこと、中岡は村上運転の自動車が突然半回転し道路上に入りこんで来た時わずか一五、六メートルの距離に接近して前記速度で走行していたので、直ちに急制動したが間に合わなかつたもので、半回転して停止した同車に追突することを避ける方法がなかつたこと、中岡の運転した自動車はブレーキ、ハンドル共に正常に作動し本件事故の原因となる構造上、機能上の欠陥は指摘できないこと、中岡には対向車が急ブレーキにより半回転して自己の車線上で停止することまで予め想定すべき義務はないこと、以上の事実が認められる。中岡が時速約八〇キロメートル以上の猛スピードで進行したため村上運転の自動車に追突する結果を招いた旨の川田、村上の主張を認めるに足りる証拠はない。

してみると、本件事故は村上の一方的過失によつて発生したものであり、村上は不法行為者として本件事故によつて相手方に生じた損害を賠償すべき責任があり、他方中岡には過失はなく、自動車損害賠償保険法第三条但書の免責事由があるので、損害賠償義務を負担しないものと言うべきである。

よつて、村上、川田の中岡に対する本件損害賠償請求(昭和五〇年(ワ)第八号事件)は、その余の点を判断するまでもなく失当である。

三  川田の使用者責任

村上が川田に雇用された従業員であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、村上は川田の指示により前記貨物自動車(北九州四ぬ六六〇九号)を用いて建設機材を運搬していて本件事故を惹起したものと認められるので、川田は村上の使用者として本件事故により中岡が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

四  中岡の受傷と治療ならびに後遺障害

〔証拠略〕によると、中岡は本件事故のため右前胸部左膝部打撲傷、右膝下捻足部挫傷、左骨盤骨折、右膝蓋骨複雑骨折、左膝関節内障の傷害を負い、その治療のため事故当日から昭和四六年一二月三一日まで北九州市戸畑区の古賀外科病院に入院し、その後住所地の病院へ転医して昭和四七年一月四日から同年三月三〇日まで御坊市の日高病院に入院し、同月三一日に退院し、以後同病院に通院して治療を受け、昭和四八年八月一三日同病院で症状固定と診断されたこと、中岡は症状固定後も歩行時には右膝関節に圧痛があり右膝の屈曲が六〇度以下にならない(伸展は正常)ので自動車損害賠償保険法施行令別表に定める後遺障害一二級程度と診断され、このため現在自動車の運転はできるものの、長時間の歩行、起立作業は不可能であること、以上の事実が認められる。

五  中岡の蒙つた損害

(一)  治療費等 金四九万八、四五四円

(1)  入院、通院治療費

〔証拠略〕によると、中岡の古賀外科病院における治療費のうち金二万五、七八一円は中岡の父中岡勇太郎が同病院に対し支払つた(その余の治療費は国民健康保険の負担)こと、〔証拠略〕によると中岡は日高病院へ昭和四七年一月四日から同年五月二四日までの治療費として合計金一〇万〇、三五三円を支払つたこと、がそれぞれ認められるので、同病院に対する治療費合計一二万六、一三四円は中岡の蒙つた損害と解される。

(2)  付添看護料

〔証拠略〕によると、中岡は古賀外科病院に入院してから日高病院に入院中の昭和四七年二月二九日まで付添看護を必要とし、主として中岡の両親が付添看護にあたつたのであるが、その付添看護料は金二〇万七、七二〇円に相当するものと認められる。

(3)  寝巻代等

〔証拠略〕によると、中岡の入院中に必要に迫られて寝巻、パンツ、ガウンを購入し、その代金が六、六〇〇円に達したこと、古賀外科病院入院中に必要とした氷の購入代金が四、〇〇〇円であつたこと、以上の事実が認められる。

(4)  入院雑費

前示認定の中岡の受傷および治療状況に照らすと、中岡は前記入院中少くとも一日三〇〇円の割合で雑費の支出を要したものと認めるのが相当であるので入院期間一一五日分の金三万四、五〇〇円は右雑費に相当する損害と認める。

(5)  往復旅費、運送費等

〔証拠略〕を総合して判断すると、中岡は弟昭宏を同道して住所地たる和歌山県御坊市から熊本まで鮮魚を運搬し、その帰途北九州市で本件事故に遭遇したものであること、中岡の両親は事故のしらせをうけて御坊市から北九州市に急行したこと、母春子はまもなく自宅に戻つたが父勇太郎は一二月二五日ごろまで北九州に滞在して中岡の看護にあたつたこと、住所地から遠く離れた病院での治療はなにかと不便であるので医師の許可を得て重傷のまま自動車にのせられてフエリーボート等を利用して帰宅し、日高病院に入院したこと、この間の父母の往復旅費、滞在費、搬送のための諸費用は大略中岡主張のとおりであると認められ、この損害は合計一一万九、五〇〇円に達するものと解する。

以上各損害の合計は四九万八四五四円である。

(二)  休業損害 金一〇六万〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によると、中岡は自動車運送事業の免許を得ないで、自己所有の自家用貨物自動車を使用して、鮮魚、青果物等の長距離運送を営業していたこと、同人は昭和四六年一月から本件事故に遭遇するまでの間に御坊市の柑橘問屋藤田博美、和歌山県日高郡日高町の三和漁業株式会社、田辺市の芝経商店などから継続的に運送を請負い、この間の運賃収入は合計三〇六万九、四二〇円(もつともこれには少くとも弟昭宏の助力も加つているものと窺えるから、この金額が中岡一人の収入となるか疑問がある)に達したこと、以上の事実が認められる。

ところで、自動車運送事業を営むには道路運送法により運輸大臣の免許を得ることが必要とされており、無免許営業者に対しては刑罰が科せられることになつている(同法第一二八条)のであるから、右無免許の運送事業による収入をもつて中岡の休業損害(さらには逸失利益)を算定することは許されないものと言わねばならない。ところで、中岡は本件事故当時健康で勤労の意思および能力を有した二九歳の男子であつたのであるから、当時の常用労働者の平均賃金並の収入があつたものと解して差支えない。昭和四六年度の常用労働者(二五歳から二九歳まで)の平均賃金は月額七万円、ほかに年間賞与等が二二万円(労働省編、賃金構造基本統計調査報告による)であるので、これを中岡の休業損害、逸失利益の算定の基礎とするのが相当である。

前示認定のとおり中岡は昭和四八年八月一三日症状固定と診断されたのであるが、同人の受傷の部位程度、治療の経過、後遺障害の内容その他の事情を考慮すると、右症状固定の日まで全く就業不能であつたものと解するのは相当でなく事故の一年後にはある程度の労働に服することが可能であつたものと考えられるので、同人の治療期間のうち事故発生以来の一年間を休業損害の生ずる期間と認める。すると休業損害の額は次のとおり金一〇六万円となる。

70,000円×12+220,000円=1,060,000円

(三)  慰藉料 金一一二万二〇〇〇円

前示認定の本件事故の態様、中岡の受傷の程度、後遺障害の内容等を総合すると、中岡が蒙つた精神的苦痛を慰藉するには少くとも中岡主張のとおり金一一二万二、〇〇〇円が必要であると認められる。

(四)  逸失利益 金二五〇万三、一八二円

中岡の後遺障害の程度および逸失利益算定の基礎とすべき同人の収入額(年間一〇六万円)は前示指定のとおりであり、その労働能力喪失率は労働能力喪失率表(労働省労働基準局長通達)を参酌して一四パーセント、就労年数は事故一年経過後から六八歳までの三八年と解し、年五分の割合による中間利息を控除して(三八年の複式ライプニツツ係数は一六・八六七八)労働能力一部喪失による逸失利益の現価を算出すると、次のとおり二五〇万三、一八二円(円未満四捨五入)となる。

1,060,000円×16.8678×14/100=2,503,181.52

(五)  物損 金六四万〇、二三〇円

前示認定のとおり中岡は普通貸物自動車を所有していたところ、本件事故によりその前部を破損されたものであり、中岡と川田との間において成立について争いがなく、〔証拠略〕によると、右自動車の修理代は金六四万〇、二三〇円であると認められるので、右は中岡の蒙つた損害である。

(六)  損害合計

以上のとおり中岡の蒙つた損害は合計五八二万三、八六六円に達するものと認められる。

六  川田、村上主張の抗弁について

(一)  裁判外の和解

〔証拠略〕には、中岡が古賀外科病院に入院中に中岡と村上との話し合いの結果、中岡に対する損害賠償の支払は自賠責保険からの給付の限度でこれをなす旨の合意ができたとの供述があるが、これを裏付ける証拠書類は何等提出されず、これと相反する〔証拠略〕に照らし右川田の供述は到底信用することができない。他に右抗弁事実を認むべき証拠はない。

(二)  過失相殺

前示認定の本件事故の態様および原因に照らすと、中岡には過失相殺の対象としてとりあげるべき過失はないので、本件損害賠償額の算定にあたつては過失相殺はしない。

七  結論

以上の次第であるので、原告中岡の請求は前記認定の総損害額から同原告の自認する既受領保険金額九七万円を控除した残額四八五万三、八六六円およびこれに対する本件事故の翌日の昭和四六年一二月七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当としてこれを認容することとし、同原告のその余の請求および原告川田、同村上の各請求はいずれも失当であるので棄却を免れず、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行およびその免脱宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井土正明)

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